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橋梁点検とは?目的や種類、点検時に注意することを解説
橋は常に風雨や気温変化、車両の通行による負荷にさらされています。そのため、経年劣化による損傷や老朽化が避けられません。もし、橋に不具合が生じた場合、私たちの生活に大きな影響が出ます。通行止めによる交通渋滞や経済活動の停滞、最悪の場合には落橋事故による人命損失といった深刻な事態も想定されます。
想定される事態 | 影響 |
---|---|
通行止め | 交通渋滞、経済活動の停滞、迂回路への負担増 |
落橋事故 | 人命損失、負傷、周辺環境への影響 |
そこで重要なのが、橋梁点検です。適切な点検を実施することで、橋の寿命を延ばし、安全性を確保することができます。橋梁点検とは何を行い、その目的や対象となる橋の種類について詳しく解説します。
まとめ
- ・橋梁点検とは、橋の安全性や機能性を維持するために、定期的に橋の状態を調べること
- ・橋梁点検の種類は、通常点検・定期点検・異常時点検
- ・点検時は正確な記録、劣化しているなら対応策など相当の資格を持つ人間が対応することが期待される
橋梁点検とは

橋梁点検とは、橋の安全性や機能性を維持するために、定期的に橋の状態を調べることです。具体的には、ひび割れや腐食、ボルトの緩みなど、橋の損傷や劣化の有無を確認します。早期に問題を発見し、必要な対策を講じることで、橋の崩落などの重大事故を未然に防ぎ、人々の安全・安心な暮らしを守ることが目的です。また、適切な維持管理を行うことで、橋の寿命を延ばし、長寿命化させることも重要な役割の1つです。
点検対象となる橋の種類は多岐に渡ります。道路橋、鉄道橋、歩道橋など、私たちの生活に欠かせない様々な橋が対象です。規模も大小様々で、小さな歩道橋から、長大な吊り橋まで、それぞれの橋の特性に応じた点検が必要です。
橋の種類 | 例 |
---|---|
道路橋 | 高速道路、国道、県道 |
鉄道橋 | 新幹線、在来線 |
歩道橋 | 駅周辺、横断歩道 |
これらの橋は、日々、風雨や車両の通行など、様々な影響を受けています。そのため、定期的な点検を実施し、適切な維持管理を行うことが不可欠です。橋梁点検は、社会インフラを支える重要な役割を担っていると言えるでしょう。
橋梁点検の種類と方法
橋梁点検は、その目的や状況に応じて様々な方法で行われます。大きく分けると、目視や触診などの簡易的な点検から、専門的な機器を用いた高度な点検まであります。
通常点検
通常点検は近接目視を基本とし、日常巡回によって確認されます。目視によって橋の状態を定期的に確認することで、早期に損傷を発見し、大きな事故を未然に防ぐことを目的としています。
定期点検
定期点検は、5年に1度、近接目視や簡易的な点検器具を用いて、橋の状態を詳細に確認する点検です。平成26年に国土交通省「道路橋定期点検要領」が施行され、定期点検の基本的な内容や方法について定められており、適時適切な点検実施が義務付けられています。「橋梁を構成する部材ごとに損傷の有無や程度を調べ、その後の維持管理計画に役立てます。定期点検では、橋梁の劣化状況を4段階で評価します。
区分 | 判定 | 具体的な状況例 |
---|---|---|
Ⅰ | 健全 | 損傷がほとんどなく、機能に支障がない状態 |
Ⅱ | 予防保全段階 | 機能に支障はないが、予防保全の観点から措置が望ましい状態 |
Ⅲ | 早期措置段階 | ひび割れや腐食など、機能として支障が出る可能性がある状態 |
Ⅳ | 緊急措置段階 | 部材の変形や破断など、機能に支障が生じる、或いは生じている状態 |
点検の結果、損傷の区分に応じて適切な維持管理対策を行います。Ⅲ以上の場合、詳細点検を実施して損傷状況を詳しく調べます。場合によっては、通行止めなどの緊急措置を講じ、補修や補強などの対策が必要になります。通常点検は、橋の健全性を維持し、安全な交通を確保するために重要な役割を担っています。
異常時点検
異常時点検とは、地震や台風、事故、火災などの突発的な事象が発生した後に、橋の損傷状況を緊急的に確認するために行われる点検です。迅速な対応が求められるため、事象発生後速やかに実施されます。
事象 | 点検の目的 |
---|---|
地震 | 地震によるひび割れ、変形、落橋の危険性などを確認 |
台風 | 台風による桁の腐食、部材の損傷、漂流物の付着などを確認 |
事故 | 車両衝突などによる橋の損傷状況を確認 |
火災 | 火災による部材の損傷や劣化の程度を確認 |
異常時点検では、目視点検だけでなく、必要に応じて、ハンマーで叩いて音を確かめる打音検査や、コンクリートの強度を調べる検査など、より詳細な調査を行います。これらの点検結果に基づき、通行止めなどの緊急措置や、応急復旧、本格的な復旧工事などの対応が決定されます。橋の損傷が軽微な場合は、通行止めを解除できますが、損傷が大きい場合は、長期間の通行止めや、架け替え工事が必要になることもあります。異常時点検は、橋の安全性を迅速に確認し、二次災害を防止するために重要な役割を果たしています。
橋梁点検に関する資格

橋梁点検を行うには、道路橋に関する相応の資格または相当の実務経験を有する必要があります。具体的には、以下のいずれかの要件に該当する者とされています。
・道路橋に関する相応の資格または相当の実務経験を有すること
・道路橋の設計、施工、管理に関する相当の専門知識を有すること
・道路橋の定期点検に関する相当の技術と実務経験を有すること
これらの要件を満たす資格を紹介します。
道路橋点検士
道路橋点検士は、道路橋の点検に関する高度な専門知識と技術を有することを国土交通省が認定する資格です。
道路橋点検士には、大きく分けて以下の4つの役割があります。
・橋梁の点検: 目視や計測器を用いて、橋の損傷箇所や劣化状況を調べます。
・点検結果の記録: 点検結果を写真や図面などを用いて記録し、報告書を作成します。
・損傷原因の分析: 損傷の原因を分析し、適切な補修方法を検討します。
・維持管理計画の提案: 点検結果に基づき、橋の長寿命化のための維持管理計画を提案します。
橋梁の長さや構造によって適切な資格を持つ道路橋点検士が点検を行うことで、橋の安全が守られています。
このように、道路橋点検士は、橋梁の維持管理において重要な役割を担っています。彼らの専門的な知識と技術によって、私たちの安全な移動が支えられているのです。
橋梁点検で注意すること
橋梁点検は、高所作業や交通規制を伴うため、安全対策が最優先事項です。また、点検結果を適切に記録・管理し、点検の精度と効率を高めることが重要です。
安全対策(高所作業、交通規制など)
橋梁点検は、高所作業や交通規制を伴う危険な作業です。安全対策を徹底することが、点検作業員の安全確保と円滑な点検実施に不可欠です。主な安全対策は以下の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
高所作業対策 | ・安全帯・ヘルメットの着用 ・作業足場の設置・点検 ・墜落防止装置の設置 |
交通規制 | ・点検場所・時間に応じた適切な規制 ・標識・誘導員の配置 ・周辺住民・道路利用者への周知 |
その他 | ・作業前の安全教育の実施 ・緊急時の連絡体制の確保 ・気象条件の確認 ・健康状態の確認 |
点検記録の適切な作成と管理
点検記録は、橋梁の維持管理において非常に重要な役割を果たします。過去の点検結果を記録し、経年変化を把握することで、適切な補修・補強計画を立案することができます。また、点検記録は、将来発生する可能性のある損傷を予測するのにも役立ちます。適切な記録の作成と管理は、橋梁の長寿命化に不可欠です。
点検記録には、以下の項目を漏れなく記載する必要があり、これらの情報を専用の点検記録用紙やデータベースに入力し、管理します。
項目 | 記入例 |
---|---|
点検実施日 | 2024年4月1日 |
点検場所 | A橋 |
点検者氏名 | 橋梁太郎 |
点検方法 | 近接目視 |
点検結果 | ひび割れ複数箇所確認 |
写真、図面 | 添付 |
点検記録は、後から容易に検索・参照できるように、整理・保管する必要があります。電子データでの管理が推奨されますが、紙媒体で管理する場合は、劣化や紛失を防ぐための対策が必要です。過去の点検記録を適切に管理することで、将来の点検計画を効率的に策定し、橋梁の安全性を確保することに繋がります。
橋梁点検後の対応
橋梁点検の結果に基づき、橋の健全性を維持し、安全性を確保するために必要な対応を行います。主な対応として、補修・補強工事と長寿命化計画の策定があります。
補修・補強工事
橋梁点検の結果、損傷や劣化が見つかった場合、速やかに補修・補強工事を行います。軽微な損傷であれば部分的な補修で済みますが、損傷が進行している場合は、大規模な補修・補強工事が必要になります。
補修・補強工事には、大きく分けて以下の3つの種類があります。
1. 部分的な補修
ひび割れの充填、遊離石灰の除去など、損傷箇所を部分的に補修する方法です。
2. 断面修復
劣化・損傷したコンクリートを除去し、新しいコンクリートを打設する方法です。
3. 補強
橋の耐荷力を向上させるために、鋼板や炭素繊維シートなどを貼り付ける方法です。
どの方法が適切かは、橋梁の損傷状況や交通量、周辺環境などを考慮して決定されます。補修・補強工事は、専門の業者によって行われます。工事期間中は、交通規制が必要となる場合もあります。また、工事費用は、損傷の程度や規模によって大きく異なります。早期に適切な補修・補強工事を行うことで、橋梁の寿命を延ばし、安全性を確保することができます。
長寿命化計画
橋梁点検の結果に基づき、橋の長寿命化を図るための計画を立案します。これは、予防保全の考え方に基づき、適切な時期に適切な対策を行うことで、ライフサイクルコストの縮減と安全性の確保を両立させることを目的としています。
長寿命化計画では、点検結果を分析し、損傷の程度や進行状況を予測します。その上で、以下の内容を計画に盛り込みます。
・補修・補強の時期と方法
・点検頻度の見直し
・架替え時期の検討
具体的な対策としては、ひび割れに対する樹脂注入、鋼材の腐食に対する防食塗装、落橋防止構造の設置など、多岐にわたります。
長寿命化計画を策定する際には、以下の表のように対策の優先順位を検討し、費用対効果の高い対策を選択することが重要です。
橋梁点検で安全・安心な社会を築く
橋梁点検は、私たちの安全・安心な暮らしを支える上で欠かせない取り組みです。適切な点検と維持管理によって、橋の老朽化による事故や災害を防ぎ、円滑な交通網を維持することができます。近年、橋梁の長寿命化が重要な課題となっています。建設後50年以上経過する橋梁が増加する中で、限られた予算の中で効率的に維持管理を行うためには、点検の効率化と高度化が求められています。
橋梁点検は、単なる点検作業ではなく、社会インフラの安全を守り、持続可能な社会を実現するための重要な役割を担っています。私たち一人ひとりがその重要性を理解し、橋梁の維持管理に関心を持ち、協力していくことが、安全・安心な社会を築くことに繋がります。